Photo | ©Tourism and Events Queensland
親御様ならどなたでも、子どもたちの自信や幸せ、健康を願うものですよね。では、彼らの自己肯定感を高めるために、親や教育者の立場からどのようなアプローチをすればいいのでしょうか?ここでは心理学者によるリサーチや日本と西洋社会でのアプローチの比較をしながら、このテーマについて考えてみたいと思います。
「褒めた理由を伝える」
“Your Kids Are Listening: Nine Messages They Need to Hear from You.”の著者で、心理学者であるJim Taylor氏は下記のように述べています。「もしあなたが、自分の子どもがしたことに対して、 『すでに十分にできている』と感じた時に、『もうそれ以上やらなくても大丈夫だよ』と言うかもしれません。ですが『自信』とは、物事を繰り返し実行する中で、挑戦し、失敗して、そしてもう一度挑戦するという過程を通じてこそ得られるものだということを親たちは理解をする必要があるのです。」
日本では、一般的にまだ子どもたちが幼い頃から他者との比較が行われる場面が多く、いわゆる「減点方式の教育スタイル」がこれまでは主流になっていました。自分が全体の中でどのくらいの偏差値を持っているのか、どこを伸ばす必要があるのか。他者との比較をする中で不足している部分に目を向けさせ、それを補うように勉強をしたり、努力をすることを促す場面が多いのではないでしょうか。
一方で、西洋社会ではしばしば親が子どもの行動について、やや過剰に褒める傾向があると言われています。いかなる状況でも褒められていると、次第に子どもたちは自分のことを『完璧だ』と考えるようになったり、実際にはできていなくても褒められるということに慣れてしまいがちです。このような場合には、過剰に褒め称える代わりに、「たくさん勉強したから、成績が良くなったね。」「一生懸命練習したから、うまくなったね」という、具体的な理由を示した声かけが非常に効果的です。
日本的な考え方と、西洋のアプローチのどちらが正しいということはありませんが、異なる幼児教育のアプローチに目を向けてみることは非常に有意義であるはずです。
「リスクをとらせる」
子どもたちを甘やかしすぎたり、あらゆる危険やリスクから彼らを守ろうとすることは、成長のためにはかえって逆効果です。例えば、日本では小学校低学年の子どもたちが自分一人で歩いて学校へ通学するのが一般的ですが、海外では親が学校への送り迎えをするケースが多いです。
イギリスでは、8歳の子どもを学校へ一人で歩いて通わせる割合は、1971年の80%から2006年には12%にまで大幅に低下しています。これは、犯罪率の低さにも関わらず、その傾向が年々顕著になっているのです。心理学者の研究結果によると、高い雲梯(うんてい)に登るように、子どもにリスクをとらせるほど、より勇敢でチャレンジ精神が旺盛なパーソナリティを持つ子に育つ傾向があることが明らかになっています。
反対に、好奇心の赴くままに自由に遊ぶことを周囲から制限され、日々の生活の中でリスクを取る経験が少ない子どもたちほど、不安や些細な物事にも過敏な性格になりがちです。この解決策は、至ってシンプルです。親御さまの立場やお気持ちからは難しい状況があることも少なくないと思いますが、子どもたちの想いの向くまま、できるだけ自由に遊ばせる環境や時間、機会を与えることが親や教育者にとっては何よりも重要です。
明らかに過度な危険が伴う行動を防ぐことはもちろん必要ですが、周囲の保護者たち自身が勇気を持って、積極的に見守るという姿勢が必要なのではないでしょうか。
「子ども自身に判断をさせる」
例えば、その日の気温に合わせて適切な服装を子ども自身に決めさせるような、そんな経験を通じて、子どもたちは社会に適応するための判断力を少しずつ身に付けていきます。Kids&CompanyのCEOであるVictoria Sopik氏は、彼女自身の子どもたちに対していつも自分で服を決めるように伝えています。
「子どもたちが暑さと寒さの違いを一度理解できたら、あとは彼ら自身に任せるようにしています。彼らは自分自身の身体をコントロールしたり、自らの選択に責任を持つべきなのです。」さらに彼女は、下記のように述べています。「智慧は経験から、経験は”誤った”判断をすることから得られるのです。」幼少時から(ある一定の範囲内で)自分自身で問題を解決させることで、レジリエンス(回復力・復元力)が育まれるのです。
また、ある幼児教育の専門家は、子どもに対して「 自分自身が自分に一番詳しい専門家なんだよ。他の誰も自分については教えてくれないからね。」と声掛けすることを勧めています。幼い子どもたちにはすぐには理解できないかもしれませんが、自分で考える、判断をさせる、そしてその選択に責任を持たせる、という意識付けをすることは非常に大切なことなのです。
「お手伝いをさせる」
子どもたちは自分にできることを他人に示す機会や、誰かの役に立てるチャンスを求めているものです。例えば、家事のお手伝いやベッドメイキング、夕食のためのテーブル準備、料理のお手伝いなどもそうした絶好のタイミングになるでしょう。いつかは家から巣立ち、独立をしていく彼らにとって、このようなお手伝いの機会は子どもたちが責任感や自己信頼についての学びを得るために非常に有効であることが研究からわかっています。
また、ある研究結果では、日頃からお手伝いをする子どもたちは高い自己肯定感を感じており、責任感が強く、イライラする感情をコントロールできるだけの自制心を持ち、目先の報酬に惑わされにくい傾向があることも明らかになっています。
「子どもの好奇心を解放する」
子どもたちの自信は、彼ら自身が興味や関心を持つことを行い、最後まで自分の力でやり抜くことによって、次第に高まっていきます。水泳で泳げるようになることや、家族の絵を書いて完成させることなど、あらゆる経験においても、自分が興味を持ったことを最後までやり抜くという経験が、達成感を得るためには大切なプロセスなのです。
心理学者のPeter Gray氏は、「子どもたちは親からのプレッシャーや制限なく、彼ら自身のパッションに従って行動できるように、真に自由な時間を与えられるべきだ」と述べています。「友達を作ったり、アイディアや形にすること、退屈さを味わいながらも自分でそれを打ち破ること、そのためにも彼らには時間が必要なのです。」
私たちは親や保護者は、一歩下がって、子どもたち自身の幸せへと繋がる道を見つけるために、パッションや興味、関心に従って自由に行動できるように見守ってあげることが大切です。
チェックリスト
さてここからは、子どもの自己肯定感を高めるために実際に何から始めれば良いのかわからないという方に向けて、カナダのMental health Associationが提唱している「自己肯定感チェックリスト」をご紹介致します。
✔︎ 周囲の子どもたちよりも優れていると思わせるのではなく、自分自身が特別な存在なのだという意識を子どもに持たせることができている
✔︎ 目標を設定し、その達成に向けて努力すること、そしてその達成にプライドを持つことを、しっかりと子どもに伝えて、理解させている
✔︎ 繰り返しチャレンジをさせ、リスクを冒し、何度も新しい挑戦をすることを促すことができている
いかがでしょうか?これら3つの項目について、日々どれくらい実践できているでしょうか?
最後に、同機関が述べている子どもの自己肯定感を高める上で大切にしたい考え方をご紹介しておきます。
”自己肯定感とは、単に自分自身の長所に目を向けるだけではなく、持ち合わせている能力も、現状では弱い部分も、一旦すべてを受け入れて、その中でベストを尽くせるようにすることが大切なのです。”
”例えば、仮にあなたの子どもがテニスが好きだとして、スタープレーヤーになれるほどには上手くはなかったとしても、彼らがテニスを楽しむことを、決して止めてはならないのです。”
日本と西洋の子どもたちとの比較
興味深いことに、国際的な研究において日本や台湾などでは自己肯定感が相対的に低いレベルである一方で、概ね西洋諸国では比較的高いレベルにあることが明らかになっています。研究者のLawrence T. White によると、この差異の原因にはそれぞれの国における文化的な背景があることを指摘されています。つまり、個人主義的とされる欧米諸国やオーストラリアと比較を行うと、集団主義的ともいわれる日本や中国、韓国の自己肯定感のレベルは総じて低いというものです。
例えば自己肯定感の度合いを測定するある研究において、中間値を越えた人の割合が日本人は55%である一方で、欧米人やカナダ人においては93%もの人々がそれを上回っているという結果が出ています。
集団主義者と言われる国の人々、つまり日本や中国、韓国の人々は自分自身の価値を公平で正確に把握できていることが多いですが、個人主義者と言われる国の人々には反対に、実態にはそぐわないほど自分に対して好ましい認識を持っているケースがしばしば見受けられます。これらは西洋諸国の親たちが、子どもたちの自己肯定感を育むために褒めることに重きを置くのに対して、日本人の親たちは物事が完璧でない限り、子どもたちが欲求不満になってしまうことを恐れて、褒めることをためらいがちな傾向にあるという状況にも見て取れます。
西洋の学校では、”Student of the Week”といった、子どもたちを褒め称えるための様々なイベントや仕組みが一般的に設けられています。日本でも、このように親と子どもたちが ”建設的な批判” を通じてパフォーマンスを向上させていくことを是とする風潮を高めていく必要があるのではないでしょうか。White博士はまた、「多くの国々では、個人主義レベルの上昇は、自己肯定感のレベルを引き上げることを伴っている」と結論づけています。
さて、ここまで見て頂いたように、あなたの子どもがどんな文化や国に属しているかに関わらず、しっかりと自己肯定感を育むためには、ただ闇雲に彼らを褒めるのではなく、お手伝いをさせたり、適切なリスクを取らせ、なるべく彼ら自身のパッションに従って自由に行動ができるよう、積極的にサポートを行うことが非常に重要なのです。
目 次
国際色溢れるインターナショナルな環境
国際的に競争優位な幼児教育システム
欧米諸国よりも経済的な生活コスト
幼児の脳の発達に有効な英語学習
子どもたちはみんなオーストラリアが大好き
クリエイティビティが向上する
自己肯定感が高まる
新しいスキルが身に付く
日本への感謝の想いが深まる
「褒めた理由を伝える」
「リスクをとらせる」
「子ども自身に判断をさせる」
「お手伝いをさせる」
「子どもの好奇心を解放する」
チェックリスト
日本と西洋の子供たちとの比較
高まる”遊びと幼児教育”の重要性
「2035年」の世界で求められるもの
オーストラリアの幼児教育が注目されている理由
政府による教育・サービス品質の確保
幼児教育制度の発展とNQFについて
子どものアイデンティティ形成に重要な「帰属・存在・生成」
政府によるチャイルドケアサポート
日本の幼稚園・保育園との違い
子どもの個性とチャレンジを大切にするアプローチ
オーストラリアの幼稚園や保育園の仕組み
その他のチャイルドケアサービスの種類
オーストラリアの義務教育・高等教育
年代別の教育制度と義務教育について
プライマリースクール(小学校)が始まるタイミングは?
National Quality Standard
① NQSを構成する7つの領域
② 評価制度と品質の格付け
③ 各Quality Areaについて
EYLF(Early Years Learning Framework)
① EYLFとは
② 中心となるコンセプト
③ フレームワークの構成要素
④ 5つの原則
⑤ 実践プロセス
⑥ 期待される学習成果
Certificate Ⅲ(概要)
① 概要
② 学習コースへの参加要件
③ コースに含まれる学習項目
Diploma(概要)
① 概要
② 学習コースへの参加要件
③ コースに含まれる学習項目
オーストラリアにおけるチャイルドケア事業発展の背景
① 社会インフラとして位置付けられたチャイルドケア事業
投資観点から見るチャイルドケア事業
① チャイルドケア事業の概要
② 投資家がチャイルドケア事業買収へ投融資を行った際の投資フロー
③ オーストラリアにおけるリース担保事情
④ 買収資金貸付、担保設定、利息支払いフロー
⑤ チャイルドケア事業買収契約と譲渡のフロー
⑥ チャイルドケア事業に関わるメンバープロファイル
⑦ 運営中のチャイルドケア事業のご紹介
⑧ チャイルドケア事業の主なリスク
業界の現状と今後の見通し
① チャイルドケアビジネスの現状
② 市場に影響を与え得る主な外部要因
③ 業界における企業形態
④ 需要の決定要因
⑤ ビジネスを成功させるためのポイント
⑥ 業界の今後の動向
Play & Learnとは
Play& Learnの教育アプローチとその適用事例
レッジョ・エミリア・アプローチの特徴
レッジョ・エミリア・アプローチの哲学
オーストラリアのレッジョ・エミリア
レッジョ・エミリアで用いられる原則とその適用事例
THRASSとは
THRASSの有効性とその適用事例
親子留学プログラム「Hello Kids」
「Hello Kids」とは
現地センターのご紹介
センターでの1日の過ごし方
先生の子どもへの接し方に関する日本との違い
コレクティブな遊びと学び
現地でのおすすめアクティビティ
Triple Pとは?
ポジティブな子育てのための5つのステップ