Photo | ©Tourism and Events Queensland
NQF(National Quality Framework)とは、子どもたちへのより質の高い教育サービスの提供を目指し、オーストラリア政府の主導のもとで定められた幼児教育に関するフレームワークです。
2012年には教育サービスに関する新たな品質管理基準が導入され、下記の機関やプロセスを通じてロングデイケア、ファミリーデイケア、プリスクール/キンダーガーテン、学校外保育サービス全体の教育とサービス品質の継続的な改善に向けて取り組まれています。
The National Law and National Regulations
The National Quality Standard
品質評価プロセス
政府認定の学習フレームワーク
各州および準州におけるサービスの承認、監視、品質評価に責任を持つ規制当局
NQFの実施を指導し、規制当局と連携する政府機関 ACECQA
NQFの目的は、下記のように定められています。
教育・保育サービスを享受する子どもたちの安全・健康・幸福の確保
教育・保育サービスを享受する子どもたちの教育と発達の向上
質の高い教育・保育サービスの提供における継続的な質的改善の推進
教育や保育サービスに関する情報へのアクセス向上
教育・保育サービスの規制・管理上の負担軽減
また、NQFにはいくつかの基本原則があります。
子どもの権利と最善の利益が最も重要である
NQFは、国連の児童権利条約に準拠しています。この条約では、子どもたちが大人に意見を聞いてもらう権利、暴力や虐待、無視などから守られる権利、成長のための機会を持つ権利などが定められています。
子どもたちは、可能性を秘めた学習者である
子どもたちは能動的な意思決定者であり、教育者は子どもについての先入観を排除し、彼らのユニークな資質や能力を尊重し、可能性を開花させるために働きかけることが必要です。
平等と統合、そして多様性
NQFは子どもたちを取り巻く多様な社会的・家庭的な状況、文化的背景、能力などに関係なく、すべての子どもたちの可能性と権利を大切にしています。教育者は、すべての子どもに公平な個別の学習機会を提供することが義務付けられています。
オーストラリアの先住民文化へのリスペクト
オーストラリアは多様性に富んだ国であり、何千年もの間、オーストラリアの先住民によって育まれてきた固有の土地です。教育者は、価値観や信念などの違いから生じる可能性のある対立や緊張に対して敏感に反応し、双方を尊重しながら解決を図り、子どもたちのさらに深い世界への理解を促すことが求められています。
家族と保護者の価値観の尊重
家族は子どもにとって最も身近で影響力のある教育環境です。教育者は家族と積極的にコミュニケーションを図り、良好な関係を築くことが必要とされています。
ベストプラクティスの追求と実践
教育者は、変化する社会や時代の中で、常に最善の努力とアプローチを図ることが義務付けられています。
National Quality Standard
① NQSを構成する7つの領域
National Regulationsに含まれるNational Quality Standard (NQS)は、教育・保育サービスに関する品質管理基準を定めており、子どもたちの成長と発達において重要な7つの領域が含まれています。
QA1|教育プログラムと実践
QA2|子どもの健康と安全
QA3|物理的な環境
QA4|スタッフの配置
QA5|子どもとの関わり
QA6|家族や地域社会とのパートナーシップ
QA7|ガバナンスとリーダーシップ
② 評価制度と品質の格付け
サービスは、州政府の規制当局によってNQSに照らした評価・格付けが行われ、7つの品質分野のスコアに基づき、その結果に基づいて総合的な格付けが与えられます。
評価は下記の5段階に分類されます。
最高クラスのクオリティ
政府の品質基準を大幅に上回っている
政府の品質基準を満たしている
政府の品質基準に向けた努力が必要
大幅な改善が必要
各サービスセンターについての格付けは、ACECQAウェブサイト(www.acecqa.gov.au)にも掲載されており、どなたでも閲覧が可能です。
実際に各センターの評価の際に行われるプロセスは、下記のような流れです。
サービス情報(コンプライアンス履歴、過去の評価記録など)の確認
センターで定めたQIP(Quality Improvement Plan)の確認
施設への訪問調査
訪問調査の際には、担当者が以下の方法で確認を行います。
観 察
教育者・スタッフ・子供・家族の行動(気配りや思いやりがあルカ、親しみやすい態度で接しているか、相手を尊敬しているかなど)を観察する。
ディスカッション
責任者やスタッフと、どのようにサービスが実践がされているかを話し合う。
確 認
子どもたちの出席記録や入学記録、センターポリシーや行動マニュアル、ミーティングの議事録、セーフティチェックリスト、ニュースレター、写真、子どもの作品集、子どもの評価記録などの書類が適切に管理・運営されているか確認する。
また、上記以外にも、提供するサービスの内容は子どもたちの興味やスキル、そして家族や地域社会におけるニーズなど、あらゆる環境や状況を考慮している必要があります。
③ 各Quality Areaについて
Quality Area 1: 教育プログラムと実践
概 要:
National Quality StandardのQuality1は、教育者の教育プログラムと実践についてです。プログラムが子どもたちを中心に設計されており、 刺激的で、それぞれの子どもの学習と発達に寄与し、可能性を伸ばす機会を最大化することに焦点をあてているかどうかが問われています。
この基準は、子どもたちの個々の知識、強み、アイデア、文化、能力、興味を基にした質の高いプログラムが、子どもたち自身や社会に長期的な利益をもたらす可能性が高いことを前提に設けられています。
州政府により認定された教育従事者は、あらゆる環境において子どもたちが高品質な教育サービスを受けられるように責任を果たすことが求められています。
また、このNational Quality Standardは、Early Years Learning Framework(EYLF)とFramework forSchool Age Careという2つの学習フレームワークとも相互にリンクしており、いずれも子どもたちが生まれながらにして、すでに能動的な学習者としての存在であることを示しています。
これらはいずれも下記のアプローチを大切にしています。
子どもの学習と発達を促進するプログラムの開発
体系的な教育学に基づくサービスの実践
一人ひとりの子どもに対する計画的なアプローチ
上記において、子どもたちは「遊びをベースとした教育プログラム」の体験を通して、主体性を持ち、最もよく学ぶという考え方が提唱されています。
ここで言う、「遊びをベースとした教育プログラム」、いわゆるPlay based learningとは、下記の考え方やアプローチを反映した教育方針です。
子どもたちが新たな発見や創造を行いながら、学ぶことができる機会の提供
個性や独自表現のサポート
好奇心や創造性などの積極的な学習姿勢の促進
子どもたちが過去の経験と新しい学習を結びつけるための支援
子どもたち同士の関係性や概念の理解促進
多様性の尊重への理解促進及び健康と幸福感のサポート
提供するすべての幼児教育サービスにおいて、教育者は、体系的な教育学、子どもたちの知識やスキル、学習フレームワーク、National Qulaity Standard、そのほかの法律や規制などを活用しながら、個々の教育環境や子どもたちに最適なプログラムを設計し、どのようなサービスを実践するべきかを検討する必要があります。
また、教育者はサービスの提供にあたり、プランニングと実施内容の評価を一定のサイクルで行うことで、継続的な品質の改善を図る必要があります。
これらのプログラムと実施状況を随時子どもたちの家族と共有し、彼らが子どもの学習と発達の進捗状況を知ることができるようにする工夫も求められています。
このように、遊びを通して子どもたちの学習と発達を促進するためには、下記のような要素が必要です。
子どもたちが愛着を持つことができる教育者
子どもたちの問題解決能力や思考力を高めるために、様々な視点から意図的な実践やコミュニケーションを図ることができる教育者
子どもたちの主体性を育み、自然や社会との関わりを感じることができるような環境
子どもたちが遊びの幅を広げ、豊かにするために、さまざまな方法で利用できるリソースへのアクセス
自分たちの興味や好奇心に沿って、遮られることなく取り組める環境
評価基準とその要素及び概念:
Quality Area1には、教育プログラム、教育の実践、子どもの学習と発達のための評価と計画と言う3つの評価基準が設けられています。これらの基準は、下記に記載する理由からNational Quality Standardにおいて重要な位置付けがなされています。
州政府により認定された学習フレームワークに基づく教育プログラムの提供は、子どもたちを中心に設計されたものであり、彼らの学習機会を最大化するものである
幼児期における体系的な子どもたちへの教育・指導は、それぞれの子どもの学習と発達を促進するために必要なアプローチである
インタラクティブな教育は子どもたち一人一人の強み、スキル、知識、興味、アイデアを大切にし、更なる発達のための土壌を整え、促進し、子どもたちが主体性を持って学習することをサポートする
提供する教育プログラムについて定期的に評価と見直しを行うことは、プログラムとサービスの改善を促し、子どもたちの学習環境の質的な向上に継続的に寄与する
プログラム内容や子どもの進捗状況について、教育者と適切なコミュニケーションが図れている家族は、積極的に彼らの教育に関与し、子どもの学習や発達、健康と幸福感を強化するために協力的になる
Quality Area 2 : 子どもの健康と安全
概 要:
子どもたちが健康と安全をサポートされる環境に身を置き、質の高い教育・保育サービスを受けられるようにすることを目指しています。教育者は、子どもの健康と健康的なライフスタイルを促し、子どものスキルや自信、自立心の成長をサポートすることを求められます。
必要な栄養の摂取や衛生管理(手洗い、歯磨き、耳のケアなど)、体力面、感情面、人間関係など、教育者は子どもたちの健康的なライフスタイルについて学び、子どもの健康と自信の形成をサポートすることが大切です。子どもたち自身のレジリエンスを高めることができると、自らの努力や基本的な健康習慣に責任を持ち、自立心と自信が伸ばすことができます。子どもの自立心が高まると、自分自身の健康や衛生面、身の周りのことにも責任を感じるようになり、自分と他人の安全、そして満たされている状態を自覚できるようになります。
政府により認定された教育者たちは、すべての子どもの健康や安全、幸福感をサポートする責任があります。彼らをあらゆる危険や感染症のリスクから保護するために必要な注意を払わなければなりません。
評価基準とその要素及び概念:
Quality Area 2には、子どもたちの健康と安全に焦点を当てた2つの基準があります。これらの基準は、下記の理由から子どもたちに質の高いサービスと成果をもたらすためにNational Quality Frameworkにおいて重要な要素と位置付けられています。
子どもたちの健康や生活の快適さ、幸福感は、子どもたちの学習や自信、成長の度合いに強く影響する
子どもたちには身の安全をサポートされる権利を持つ
子どもたちが安心して教育プログラムへ参加できるように、教育者は常に彼らの状況を注意深く観察し、管理する必要がある
Quality Area 3 : 施設環境
概 要:
National Quality StandardのQuality3は、子どもたちが身を置く施設環境に焦点を当てています。施設環境は以下の点において重要です。
子どもたちの健康、創造性、自立心の育成に貢献する
学びと発達を促す多様な体験を提供する
こどもの安全を守る
怪我のリスクを軽減するための環境の構築
評価基準とその要素及び概念:
Quality Area 3には、サービス施設の設計と、子どもたちの体験をサポートするための施設環境の利用に焦点を当てた2つの基準があります。これらの基準は、下記の理由から子どもたちに質の高いサービスと成果をもたらすためにNational Quality Frameworkにおいて重要な要素と位置付けられています。
整備された屋内外の施設や自然環境、設備は、子どもたちの遊びをベースとした学習を促進する
これらはまた、子どもたちの安全を確保し、彼らの活動をサポートする
施設環境は、子どもたちの経験の質に大きな影響を与える
Quality Area 4 : スタッフの配置
概 要:
National Quality StandardのQuality4では、政府による認定資格を持ち、経験豊富な教育者が子どもたちとの間で温かく、お互いを尊重し合う関係を築き、彼らが学習プログラムに積極的に参加をするよう促すことに重点を置いています。
質の高いサービスを提供するためには、教育者が提供する日々のサービスのあらゆる面においてこれらの基準が指針となるように、協力的で倫理的な文化を作ることが重要です。
子どもたちの教育に関わるすべての人物が、効果的で倫理的なサービスを提供する上で、重要な役割を果たしています。ここで述べられている理念は、資格を持つ教育者やスタッフの適切な配置に関する決定を含め、意思決定の指針となる。これは、スタッフの安定的な定着に有効であると同時に、子どもたちの学習と発達にも大きく貢献する。
評価基準とその要素及び概念:
Quality Area 4には、教育者の組織と専門性に焦点を当てた2つの基準があります。これらの基準は、下記の理由から子どもたちに質の高いサービスと成果をもたらすためにNational Quality Frameworkにおいて重要な要素と位置付けられています。
経営者、教育者、スタッフの間のプロフェッショナルで協力的なパートナーシップがサービスの継続的な改善を促し、子どもたちの学習経験と成果の向上につながる
一人ひとりの子どもの学習と発達を継続的にサポートするために、慎重に組織編成を行うことが重要である
Quality Area 5 : 子どもたちとの関係
概 要:
National Quality StandardのQuality5では、教育者が子どもたちの健康や自尊心、安心感、帰属意識を高めるために、彼らとの間で温かく、お互いに信頼し、尊重し合える関係を築くことに焦点を当てています。このような関係の構築は、子どもたちが積極的に遊びや学習に取り組むことを促すと考えられています。
すべての子どもは、自らのアイデンティティと社会的・情緒的な能力の発達のために、他者とのつながりを必要としています。子どもたちは、世界や社会がどのようにどのように存在をしているのか生まれた時からすでに好奇心を持って探求していると言えます。
彼らにとって、他者への接し方や、感情、行動、責任を自分でマネジメントすることを学ぶことは、非常に複雑なプロセスです。子どもたちが成長していくにつれ、周囲の仲間や友人との関係はますます重要になっていきます。教育者は子どもたちとお互いに協力的な関係を築くことで、彼らが自分を表現し、それぞれの違いを認識に、新しい経験を積み、リスクを予測する能力を伸ばすと同時に、自分に自信を持つことができるのです。
評価基準とその要素及び概念
Quality Area 5 には、教育者と子どもの関係、子どもと仲間の関係に焦点を当てた2つの基準があります。これらの基準は、下記の理由から子どもたちに質の高いサービスと成果をもたらすためにNational Quality Frameworkにおいて重要な要素と位置付けられています。
自分に自信を持ち、アイデンティティを強く自覚できるようになる
コミュニケーション能力と表現力の向上につながる
集団で学習に参加することで、他者との有意義な関係を築く
自分自身の行動をコントロールし、社会における対人スキルや交渉スキルが身に付く
Quality Area 6 : 家族や地域社会とのパートナーシップ
概 要:
Quality Area 6では、子どもたちの質の高い成果を達成するための土台となる、家族との関係性やパートナーシップに焦点を当てています。同時に、地域社会との積極的なコミュニケーションや協力もまた、子どもたちの包容力や学習、幸福感に大きく寄与します。家族は子どもたちの生活に大きな影響を与える存在であり、子どもたちの教育や保育に関して、強い信念と価値観を持っている場合が多い。家族と教育者がお互いに協力し、尊重された関係を築くことで、子どもたちは自己肯定感を育むことができます。
また、子どもと家族、教育サービスはお互いに独立した存在ではなく、地域社会の一部です。この地域社会と適切な連携を行うことで、ローカルコミュニティに積極的に貢献しようとする子どもたちの関心やスキルを高めることができるのです。
サービスの理念が、多様性を大切にし、包括的な実践を行い、地域社会とつながることに強くコミットしているときに、協働的なパートナーシップが達成される。サービスがすべての子どもたちを教育プログラムに参加させるための準備ができるように、サービスはまた、サービスが「インクルージョンの準備ができている」ことを保証するための具体的な計画(例えば、戦略的インクルージョン計画)を策定することができる。
評価基準とその要素及び概念:
Quality Area6には、家庭や地域社会とのパートナーシップ構築をサポートする2つの基準があります。これらの基準は、下記の理由から子どもたちに質の高いサービスと成果をもたらすためにNational Quality Frameworkにおいて重要な要素と位置付けられています。
家族の教育サービスへの関与は、どんなプログラムを提供するべきかという判断と、子どもたちの積極的な参加に影響を及ぼす
あらゆる視点から日頃提供しているサービスやプログラムの実践内容を振り返ることで、理想的な教育環境を築く上で障害となる要素を除去し、子どもたちと家族の健康と幸福感をサポートすることができます
地域社会との関わりは、子どもたちが自分が身を置くローカルコミュニティの中で自分のアイデンティティーを育むことを促す
プログラムの充実や実践、教育方針と同様に、子どもたちが多様性を尊重し、理解のある行動や振る舞いを身に付けるための機会を提供する
Quality Area 7 : ガバナンスとリーダーシップ
概 要:
Quality Area 7は、子どもたちの学習と発達のための質の高い環境を確立し、維持するために、ガバナンスとリーダーシップに焦点を当てています。リーダーは提供するサービスにおいて共通する理念と価値観を明確にし、継続的な改善を図るためにどのようなアクションを取るべきか、その方向性を具体的に定める必要があります。
ガバナンスとは、提供するサービスの管理と運営を効果的に行うためのシステムを指し、掲げられた理念に沿ったものでなければなりません。
子どもと家族のために最善の教育サービスを提供するためには、熟練した教育者と健全なリスク管理システム、明文化された教育方針と行動規範、子どもたちが安全かつ健康的に学習に取り組める環境が必要です。
定期的に自分たちが提供しているサービス内容を振り返ることで、実践しているプログラムの内容や教育方針、行動規範などを継続的に改善していくことができます。
このよう実施内容の振り返りや計画の策定、見直しを行うという継続的な一連のサイクルは、サービスを長期的に改善していくという文化を醸成し、家族を含むすべての利害関係者の関わりを深めることができます。
リーダーは、教育者が日々のプログラムやカリキュラムを作成し、その改善を図る機会を持てるよう、サポートを行うことが大切です。
また、リーダーは、現場で子どもたちに接する教育者のスキルと知識の更なる向上に向けて、継続的な学習や専門的な技術開発を行うためのチャンスを与えることが必要です。
評価基準とその要素及び概念 :
Quality Area 7には、サービスにおけるガバナンスとリーダーシップに焦点を当てた2つの基準があります。これらの基準は、下記の理由から子どもたちに質の高いサービスと成果をもたらすためにNational Quality Frameworkにおいて重要な要素と位置付けられています。
効果的なガバナンスには、理念の共有、適切な管理システム、そして質の高いサービスの運営を行うために明確に定義された役割と責任が必要である
サービスのあらゆる面における継続的な改善を促すためには、然るべきポジションの人間が組織内でのリーダーシップを発揮し、定期的な振り返りの機会を設けることで、子どもとその家族にとってより質の高いサービスを提供することができます
EYLF (Early Years Learning Framework)
① EYLFとは
ここでは、前述したNational Quality Frameworkにおいて、教育・保育サービスに関する7つの品質管理基準を定めたNQS (National Quality Standard)と共に重要な要素である、EYLF (Early Years Learning Framework) についてご紹介をしていきます。
EYLFとは、生誕から5歳までの子どもたちを受け持つ教育者向けに、オーストラリアで初めて体系的に整理された幼児教育における学習のフレームワークです。オーストラリア政府審議会によって制定されたこのフレームワークでは、下記のビジョンが定められています。
「すべての子どもたちが、自分自身と国の将来の発展に向けた、ベストなスタートを切ること」
ここでは遊びをベースにした学習が特に重視されており、言語や計算スキル、コミュニケーション、社会性と情緒面の発達などを推奨する内容になっています。また、このEYLFは子どもたちへ最も大きな影響力を持つと同時に、最大の教育者である家族との密な連携を図ることが大切であると述べています。
子どもたちの教育について考える上で、内容はBelonging(帰属)・Being(存在)・Becoming(生成)という3つの視点から構成されています。彼らは生まれながらにして家族や地域のコミュニティ、文化、居住地との繋がりを持っています。言うまでもなく、子どもたちの人生の初期における発達や学習は、こうした家族などの最も身近な関係性の中において育まれます。
こうして日々、新しい刺激や出来事に触れながら、彼らはさまざまな興味を持ち、徐々に自分のアイデンティティを確率し、周囲の世界についての理解を深めていきます。
② 中心となるコンセプト
BELONGING(帰属)
自分がどの集団やコミュニティに属しているのかを理解することは、人間が存在する上で極めて重要です。子どもたちは、まず家族内における自分の存在を認知し、次第に周囲の広範なコミュニティに帰属するようになります。このBelonging(帰属)という概念は、他者との相互依存関係や人間関係の基礎となるアイデンティティにつながる大切な視点です。
これは幼児期のみならず、人間が生涯を通じて必要なBelonging(帰属)を認識するためには、良好な人間関係の構築なくしては難しいと言えます。また、後述するBeing(存在)やBecoming(生成)と言う概念のベースとなる視点でもあります。
BEING(存在)
幼児期の子どもたちは、まさにBeing(存在)、つまりあるがままの自分を過ごす時期であり、少しづつ新たな世界とのつながりを求め、、 その意味を徐々に理解し始める段階です。 ここで言うBeing(存在)と言う概念は、今まさに人生のこの瞬間を生きることの重要性を説いています。自分を認識し、他者との関係を築いてその人間関係を維持すること、また人生における喜びや複雑性、困難への直面など、あらゆる体験はすべて今という現在にあることを述べています。
BECOMING(生成)
子どもたちのアイデンティティや知識、理解力、能力、スキル、対人関係は、彼らが幼児期の間にさまざまな出来事や状況を経験する中で、大きく変化していきます。このBecoming(生成)という概念は、彼らが成長を遂げる中で急速に変化していくそのプロセス自体に目を向けたもので、社会やコミュニティに自ら積極的に関与し、学ぶことの重要さが述べられています。
③ フレームワークの構成要素
EYLFは、子どもたちの学習を中心に、原則、指導、学習成果という相互に関連した3つの要素から構成されており、これらは実践する教育アプローチとカリキュラムにおける基礎を成すものです。
教育者は、設定する学習成果を指標として活用しながら、どのような学習プログラムを準備するべきかといった計画を策定します。子どもたちが自ら積極的に学習に取り組むために、教育者たちは彼らの強みや興味を見極め、個々に最適な教育プログラムを用意し、学習環境全体をデザインする必要があります。
子どもたちの学習体験は、あらゆる要素が混在したダイナミックなプロセスです。身体性や社会性はもとより、情緒面や精神面、創造と認知、言語的側面など、あらゆる要素がすべて相互に関連しているのです。
子どもたちは遊びをベースとした学習を通じて、個性や独自性を表現するとともに、下記のメリットを享受することができます。
好奇心や創造性を育む
過去の経験と新たな学びを結びつけることができる
対人関係や概念の認知を育み、心身の健全性を刺激する
④ 5つの原則
下記にご紹介しているのは、幼児期の学習や教育に関する最新の研究や理論に基づく5つの原則です。これらはEYLFの枠組み全体における軸となる考え方です。
1. 安全で敬意に満ちた互恵関係
心理的・身体的に安全を感じられる人間関係のネットワークを広げていくことにより、子どもたちは少しづつ自信を育み、他者からの尊重を実感することができます。こうして彼らは次第に他者の気持ちを認識し、尊重しながら、積極的に交流ができるようになっていきます。
子どもたちが他者と積極的にコミュニケーションを図るために必要なスキルや理解力を伸ばすため、教育者は感情面におけるサポートを継続的に行う必要があります。
2. パートナーシップ
EYLFで掲げられている学習成果を達成できる可能性が最も高いのは、教育者と家庭において良好なパートナーシップが築けている場合です。理解のある教育者は、家庭こそが子どもにとって最も身近で接することができる、そして最大の影響力を持つ教師であることを認識しています。
このようにして教育者は、すべての子どもと家族が尊重されているという実感を持ち、有意義な学習体験を提供するための環境を整える必要があります。
3. 高い期待と公平性
子どもたちは、親や教育者が彼らの学習成果に高い期待を抱いている時ほど、成長の度合いが高まります。教育者は常に公平性を持ち、子どもたちの多様なバックグラウンドやスキルに関わらず、すべての子どもたちの成功を目指し、サポートを行うことが大切です。
4. 多様性の尊重
子どもたちは生まれながらにして、固有の文化に Belonging(帰属)した形で生まれてきます。子どもたちが背景に持つそれぞれの文化は、伝統や慣習、先祖から受け継いだ知見だけでなく、個々の家庭やコミュニティにおける経験、価値観、信念なども反映されています。
多様性を尊重することとはつまり、家庭内における価値観や信念などを、日々のカリキュラムを実践する際においても常にこれらに敬意を払い、理解して行動するということを指します。教育者はこのようにそれぞれの子どもたちが持つ文化や言語、伝統、教育的な慣習、各家庭のライフスタイルを尊重することが大切です。こうしたアプローチを念頭に置くことで、それぞれに異なる子どもたちのスキルや才能を評価し、尊重することにつながります。
5. 継続的学習と内省的実践
教育者は、専門的な知識の習得とそのブラッシュアップに継続的に努めることが求められます。また、内省的実践とは、ひとつの継続的な学習形態であり、哲学や倫理、実践に関する子どもたちからの疑問や質問に関わるものです。教育者は日頃から現場で起こるさまざまな状況や出来事を把握し、提供するプログラムやサービスをどのように改善していくべきか、下記のような視点から問い続ける姿勢を持つことが大切です。
子どもたち一人一人のことをしっかりと理解できているだろうか?
幼児教育に携わる上で、どのような理論や哲学を持っているか?
誰のためにこの仕事をしているのか?
自分の仕事に対して、疑問は生じていないか?困難な状況を抱えていないか?興味を持っていることは何か?
自分が実践している理論や指導がうまく機能していない部分はどこか?
仕事で経験した出来事や状況をより深く理解するために有効な理論や知識がないか?それらを得ることで自身の仕事にどのような影響があるだろうか?
⑤ 実践プロセス
上記に記載した原則は、幼児教育の実践の軸となる価値観です。教育者は下記のようなアプローチで、子どもたちの学習を推進することが大切とされています。
総合的アプローチ :
このアプローチは子どもたちの心と身体、そして精神面のつながりを重視しています。教育者が子どもたちと関わりを持つ際には、彼らを一人の個人として応対し、身体面や精神面だけではなく、社会性や情緒面などに加え、認知スキルにも注意を払う必要があります。
子どもたちに反応する力 :
教育者は、子どもたちの強みや能力、興味に敏感に反応し、これらを見出すことが求められます。また、彼らの長所やスキル、知識などを適切に評価することで、学習へのモチベーションや積極性を保つように努めることが大切です。
遊びを通じた学び:
遊びを通じて、子どもたちはさまざまな発見や創造を行い、学びにつながる有意義な体験を得ることができます。他の子どもたちと一緒に遊ぶことで社会的なグループを形成し、お互いの思考の違いを知り、新たな視点や理解を身につけていきます。
このように、遊びを通じて子どもたちは身の回りの出来事にあらゆる疑問や関心を持ち、それらを解決する術を身につけたり、思考の発達を促す機会を体験することができるのです。これらの体験が彼らの思考をさらに拡張し、更なる知識の吸収や学習の欲求を導きます。つまり、遊びは学ぶということに対する、彼らのポジティブな気質を育むことができるのです。
計画的な指導:
子どもたちへの効果的な指導を行うには、包括的なプランと明確な目的を設定し、慎重に準備される必要があります。彼らの学びには、様々な人や集団との交流やコミュニケーションが極めて重要であることも、教育者は認識をしておく必要があります。
学習環境:
子どもたちが学習を行う環境は、彼らの興味や関心、そしてニーズと噛み合うように設計することが大切です。また、この際には子どもたちや彼らの家族の文化的な背景やアイデンティティも考慮することを忘れないようにしましょう。オーストラリアにおける特徴的な学習環境として、広大な自然環境があげられます。室内の環境にはない、たくさんの可能性を持ち合わせているこの自然環境をどう有効的に活用するか、教育者はしっかりと考える必要があります。
植物や樹木、畑、砂、岩、泥、水、その他にも様々な要素が自然環境には溢れています。こうした空間や子どもたちの自発性やリスクマネジメントだけでなく、彼らの探究心や自然とのつながりといった感覚を刺激し、高めることができる良い機会になります。また、自然環境への感謝の気持ちを育み、環境への意識を高めることができるのも、これらの素晴らしい環境を活用する大きなメリットと言えます。
文化的能力:
あらゆる文化の違いや背景をよく理解することで、教育者はそれぞれの子どもたちの違いを理解し、尊重することができます。この文化的能力を教育者が高めるためには、日々の実践の中で家庭や地域のコミュニティと双方向のコミュニケーションを図ることが必要です。
シームレスな学習:
子どもたちたちは、各家庭やコミュニティでの Being(存在)、 Belonging(帰属)、 Becoming(生成) の状況をそのまま幼児教育の現場に携えてきます。教育者は、すべての子どもたちが安心できる状況で、自信を感じ、他者から受け入れられているという実感を得られるように、つまりいかなる時も自分らしくありながら、快適に学習ができるようサポートを行うことが求められます。
学習の評価:
子どもたちの学習の評価とは、彼らが持ち合わせている知識、何がどれだけできるのかという能力面に関する情報をエビデンスとして集め、分析することを指します。これは、彼らの学習の計画・記録・評価という一連の継続サイクルの一環です。
教育者が子どもたちや家族、そして他の専門家とパートナーシップを組んで、効果的な学習体験をサポートするためには、下記のプロセスが重要です。
子どもたちの効果的な学習のあり方を計画する
子どもたちの学習や進捗について、適宜コミュニケーションを行う
子どもたちの学習成果の達成に向けての進捗度を判断し、達成できていない場合は進捗を妨げている要因を特定する
定期的な振り返りの機会を設け、提供するサポート内容に改善の余地がないかを探る
⑥ 期待される学習成果
下記に挙げた、目指すべき5つの学習成果は、生誕から 5歳までのすべての子どもたちの学習や成長プロセスをサポートするように設計されています。
成果 1: 子どもたちは自らのアイデンティティを強く自覚している
Belonging(帰属)・Being(存在)・Becoming(生成)という3つの概念は、子どもたちのアイデンティティの形成において不可欠な要素です。
子どもたちは自分自身について学び、家族や地域のコミュニテイの中で次第に自分のアイデンティティを作り上げていきます。自分が一人の人間として他者から尊重され、大切にされるようなポジティブな体験を通じて、Belonging(帰属)の感覚をより一層高めることができるのです。
幼児教育の現場に置き換えてみれば、子どもたちが日々接する教育者に自分が受け入れられていることを実感し、愛着を感じ、信頼関係ができた時にBelonging(帰属) の感覚を育むことができると言えるのです。
成果 2: 子どもたちは世界とのつながりを感じ、存在意義を認識している
人間関係やコミュニティへの参加は、子どもたちのBelonging(帰属)、Being(存在)、Becoming(生成)の向上に貢献します。彼らは生まれながらに家庭や地域、幼児教育の現場など様々なコミュニティの中で他者とともに生き、学びを得ています。
成果 3: 子どもたちが身体的・精神的に健全な状態であること
健全性は物理的側面と心理的側面を兼ね備え、belonging(帰属)、 being(存在)、 becoming(生成)にとって非常に重要です。 心身の健全性な くしては、belonging(帰属) を実感することも、他者を信用し being(存在) に自信をもつことも、becoming(生成) に貢献する経験に楽観的に取り組む ことも困難です。
健全性は、子どもたちの内的探求心、自己主 体感(エージェンシー)、反応を示す他者と交わりたいという欲求の発達を 促します。
成果 4: 子どもたちは自信に満ちた積極的な学習者である
安心感や心身の健全性は、子どもたちに実験や探求に 興じ、新たなアイデアを試す自信を与え、ひいては学習 に対する自信を育み、積極的な学習の参加者へと育て ていきます。家庭やコミュニティでの体験や理解が幼児 教育の現場にも認識され、含まれているときほど、子ど もたちが自信を持った積極的な学習者に育つ可能性は 高まります。
成果 5: 子どもたちは効果的なコミュニケーターである
コミュニケーションは、belonging(帰属)、being(存在)、 becoming(生成) に不可欠です。誕生の瞬間から、子どもた ちはジェスチャー、音、言語、補助されたコミュニケーションを使って他者とコミュニケーションを取ります。子どもたちは本質的にアイデア、思考、質問、感情を交換したい、自らを表現し、他者とつながり、学びを広げるために音楽、ダンス、演劇を含む多様なツールやメディアを利用したいと願う社会的存在なのです。
目 次
国際色溢れるインターナショナルな環境
国際的に競争優位な幼児教育システム
欧米諸国よりも経済的な生活コスト
幼児の脳の発達に有効な英語学習
子どもたちはみんなオーストラリアが大好き
クリエイティビティが向上する
自己肯定感が高まる
新しいスキルが身に付く
日本への感謝の想いが深まる
「褒めた理由を伝える」
「リスクをとらせる」
「子ども自身に判断をさせる」
「お手伝いをさせる」
「子どもの好奇心を解放する」
チェックリスト
日本と西洋の子供たちとの比較
高まる”遊びと幼児教育”の重要性
「2035年」の世界で求められるもの
オーストラリアの幼児教育が注目されている理由
政府による教育・サービス品質の確保
幼児教育制度の発展とNQFについて
子どものアイデンティティ形成に重要な「帰属・存在・生成」
政府によるチャイルドケアサポート
日本の幼稚園・保育園との違い
子どもの個性とチャレンジを大切にするアプローチ
オーストラリアの幼稚園や保育園の仕組み
その他のチャイルドケアサービスの種類
オーストラリアの義務教育・高等教育
年代別の教育制度と義務教育について
プライマリースクール(小学校)が始まるタイミングは?
National Quality Standard
① NQSを構成する7つの領域
② 評価制度と品質の格付け
③ 各Quality Areaについて
EYLF(Early Years Learning Framework)
① EYLFとは
② 中心となるコンセプト
③ フレームワークの構成要素
④ 5つの原則
⑤ 実践プロセス
⑥ 期待される学習成果
Certificate Ⅲ(概要)
① 概要
② 学習コースへの参加要件
③ コースに含まれる学習項目
Diploma(概要)
① 概要
② 学習コースへの参加要件
③ コースに含まれる学習項目
オーストラリアにおけるチャイルドケア事業発展の背景
① 社会インフラとして位置付けられたチャイルドケア事業
投資観点から見るチャイルドケア事業
① チャイルドケア事業の概要
② 投資家がチャイルドケア事業買収へ投融資を行った際の投資フロー
③ オーストラリアにおけるリース担保事情
④ 買収資金貸付、担保設定、利息支払いフロー
⑤ チャイルドケア事業買収契約と譲渡のフロー
⑥ チャイルドケア事業に関わるメンバープロファイル
⑦ 運営中のチャイルドケア事業のご紹介
⑧ チャイルドケア事業の主なリスク
業界の現状と今後の見通し
① チャイルドケアビジネスの現状
② 市場に影響を与え得る主な外部要因
③ 業界における企業形態
④ 需要の決定要因
⑤ ビジネスを成功させるためのポイント
⑥ 業界の今後の動向
Play & Learnとは
Play& Learnの教育アプローチとその適用事例
レッジョ・エミリア・アプローチの特徴
レッジョ・エミリア・アプローチの哲学
オーストラリアのレッジョ・エミリア
レッジョ・エミリアで用いられる原則とその適用事例
THRASSとは
THRASSの有効性とその適用事例
親子留学プログラム「Hello Kids」
「Hello Kids」とは
現地センターのご紹介
センターでの1日の過ごし方
先生の子どもへの接し方に関する日本との違い
コレクティブな遊びと学び
現地でのおすすめアクティビティ
Triple Pとは?
ポジティブな子育てのための5つのステップ